「般若湯」という言葉の語源・由来
「葷酒山門に入るを許さず(くんしゅ さんもんに いるをゆるさず)」という言葉があります。
禅宗の寺などの門近くの石碑に刻まれているのを見かけた方もいるでしょう。これは「臭い野菜や酒は、寺に持ち込んではならない」という意味で、葷とはニラ・ニンニクといった強い臭いの野菜のことです。仏教の寺では、臭気の強い野菜や酒を飲食することは修行に差し障るため、厳しく禁じられていました。
若手社員
餃子とビールで一杯…なんて許されなかったんですね。最高なのに。
しかし、日本に仏教が広まっていくうちに一部の僧侶たちは、百薬の長といわれる酒を「身体のために薬として飲むのであれば、少しだったら良いだろう」と考えるようになり、飲酒が黙認されるようになったといいます。
もともと、五戒で飲酒を禁じた理由は「飲酒によって他の4つの戒めを犯すことを防ぐ」ことにありました。ならば、「戒めを犯さなければ少しくらいは酒を飲んでも構わないだろう」と解釈されたのでしょう。
若手社員
「般若湯」は日本だけの言葉なんですか?
ガネーシャ
そういうことじゃな。仏教発祥の地インドは暑い気候だから、お酒は身体にも悪い物とされておった。それが日本に伝わってきて、独特の解釈が生まれたのじゃ。
現在でも僧侶の間では、飲酒に関する考え方はまちまちで、飲酒を否定して飲まない僧侶もいれば、たしなむ方もおられるようです。
ガネーシャ
ちなみに、ビールは「麦般若」と呼ばれているそうじゃよ。
なぜ「般若湯」?
「般若湯」には、「智恵の湧きいずるお湯」という意味があります。智慧を意味する「般若」が湧いてくるお湯=薬として解釈されたとも考えられます。
この解釈を「飲酒を正当化している」という声もあり、賛否は現在も分かれているようです。
高野山の般若湯
高野山の地酒「紀州かつらぎ川上酒」は、昔から地元の僧侶らに般若湯として飲まれていたという日本酒です。今でも高野山の酒蔵では、昔の味を守りながら製造されており、地元の人々からも親しまれています。昔ながらの伝統の味だけではなく、現代の好みに合わせた商品もあるので、「般若湯」気分を味わってみるのも良いでしょう。
落語「蒟蒻問答」
「般若湯」は落語にも登場しています。古典落語の演目「蒟蒻問答(こんにゃくもんどう)」の中で、にわか僧侶となった八五郎が酒を飲むシーンで「般若湯」という言葉が出てきます。
「般若湯」まとめ
「般若湯」は仏教の僧侶たちの間で広まった隠語の一つで、お酒(日本酒)を指す言葉でした。
僧侶たちが使う隠語には「山の芋」=うなぎ、「白茄子」=卵を指すなど、ほかにもいろいろあるようです。厳しい戒律の中で修行に励む僧侶たちにとって、うなぎや卵はめったにないご馳走だったのでしょうか。
現在でも、高野山などの一般宿泊が可能な宿坊では、希望すれば精進料理とともに「般若湯」(日本酒)を飲むことができます。寒さ厳しい高野山で修行僧たちの身体を温めた「般若湯」に想いを馳せながら味わってみるのも一興です。
ガネーシャ
ここまで読んでくれてありがとう。般若湯については理解できたと思うが、くれぐれも飲みすぎには注意じゃ! 機会があったら、宿坊で勤行や座禅を体験するのもおすすめじゃよ。
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