ハリネズミのジレンマとは?その意味について
「ハリネズミのジレンマ」とは他者との適度な心理的距離を探ろうとする心理的な葛藤を、ハリネズミの関係に例えてあらわした造語です。
華ちゃん
「ハリネズミのジレンマ」という言葉は、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で紹介されたことをきっかけに広く知られるようになりました。もともとは「ヤマアラシのジレンマ」といいます。
しかし、当アニメのサブタイトルで「ハリネズミのジレンマ」と表現されたため、ハリネズミの方が浸透したようです。
フロイト先生
人間は、お互いの心理的距離が近づけば近づくほど、エゴがぶつかって傷つけあうことも多くなってしまう。人間関係における心の葛藤を見事に言いあらわしているのが、この「ハリネズミのジレンマ」なのじゃ。
ハリネズミのジレンマの元となった話
ハリネズミのジレンマは、ドイツの哲学者アルトゥール・ショーペンハウアーの随筆集に収録された寓話をもとに作られた理論です。
その寓話とは、「ヤマアラシの一群が、冷たい冬を乗り切るためにお互いの体温で温め合おうとしたが、お互いの刺が痛くて離れた。それでも寒さに耐えられず、またくっつこうと試行錯誤するうちに、お互いが傷つかないちょうどよい距離を見つけることができた」というものです。
寓話とは、「アリとキリギリス」などのように、教訓や風刺をたとえ話によってあらわしたもののことをいいます。ショーペンハウアーは人間同士の(心理的な)距離に関する葛藤を、ヤマアラシを使って表現したのです。
華ちゃん
その後、心理学者のフロイトがこの寓話を心理学の世界で引用したのです。そうですよね、先生。
フロイト先生
うむ。人間は、「自分を主張したい」「他者に受け入れられたい」という2つの相反する欲求を持っている。両方の欲求をほどよく満たすためには、試行錯誤してちょうどいい距離感をつかむことが大切なのじゃ。
心理学におけるハリネズミ指数とは?
のちにこの理論は、アメリカの精神分析医レオポルド・べラックによって、「ハリネズミのジレンマ」と名付けられました。彼は、人間関係で、どの程度「ハリネズミのジレンマ」状態が起きているか、測る方法も考案しています。これを、ハリネズミ(ヤマアラシ)指数といいます。
ハリネズミ指数は、「P.I(ハリネズミ指数指数)=刺激の数×強度×持続」であらわすことができます。例えば
友人の数 (刺激の数) |
会う回数 (強度) |
会う時間 (持続) |
ハリネズミ指数 (P.I) |
|
Aさん | 5人 | 1回 | 100分 | 500 |
Bさん | 5人 | 10回 | 10分 | 500 |
上表のAさんとBさんは、週あたりに会う友人の数が同じで、ハリネズミ指数も同じです。ただし、Aさんに比べるとBさんは表面的な付き合いが多く、会う回数を増やすことで「いい関係」を保とうとしていることが分かります。
べラック氏は、現代の人間関係の特徴として「Bの人が多くなり、傷つくことを恐れるあまり人と深く付き合わない傾向にある」と警鐘を鳴らしました。
ハリネズミのジレンマの恋愛や人間関係における具体的な例
人と親しくなろうとする時、「近づきたいけれど近づきすぎたくない」「離れたいけれど離れすぎたくない」というハリネズミのジレンマが起こるといわれています。ここでは、どのような場合にハリネズミのジレンマが起きるのか、例をあげて説明していきましょう。
関係をはっきりさせたくない
恋愛マンガなどでよくみられる、「友達以上、恋人未満」の状態も、ハリネズミのジレンマのよい例です。お互いに好意を持っているのに、恋人になった瞬間に今の関係が壊れてしまうのではないかと思い、怖くなるのです。だから告白もせず、関係をはっきりさせようとしない状態が続きます。
今の状態が心地よく、変わりたくないという気持ちもあるでしょう。本当はもっと深い関係になりたいのに、嫌われたり、振られることが怖かったりして身動きがとれないのです。
自分の意見を押し通してしまう
相手との距離感が分からず、近づきすぎて傷つけあうのも、ハリネズミのジレンマといえるでしょう。相手の気持ちを考えず、思ったことをそのまま言って険悪になるケースはよくありますね。自分の主張を押しつけすぎて、相手を不快にさせ、関係が悪化しているのです。恋人にメールの即レスを求めすぎる、などがよい例でしょう。
近づきすぎてケンカが増え、一度別れたのに寂しくなって、結局もとのサヤに戻ってしまう。それを繰り返しているカップルなどは、典型的なハリネズミのジレンマといえます。恋人だけでなく、親子や仲のいい友人同士でもこのような関係に陥っていることは多いようです。
相手の言いなりになってしまう
逆に、受け入れられたいと思うあまり、相手の意見に従ってばかりいるケースもみられます。このような場合、空気を読みすぎて自分の考えをないがしろにし、相手のことばかり優先しがちです。
ですが、一見相手を大切にしているように見えて、実は自分の意見を主張し嫌われるのが怖いのです。あまりにも受け身でいると、親密な関係は築けません。それどころか、理不尽な要求をつきつけられても我慢し続けるという異常な状態に陥ってしまうかもしれません。「モラハラされても別れない」、などがよい例でしょう。
本音で付き合うことができない
相手の反応が怖くて、自分の本音を言えなかったり、悩みを打ち明けられないこともあるでしょう。素の自分を見せられず、相手が望むようなキャラを演じてしまうのもハリネズミのジレンマの好例です。
長年一緒にいるカップルでもお互いに言いたいことが言えず、深い話ができないケースもみられます。共通の趣味もあり、楽しい話ならできるのに、お互いの本音をさらけ出すことができないのです。その結果、関係を深められず、破局を迎えてしまうこともあります。