短歌とは?
短歌とは、5・7・5・7・7のリズムで形成されてる31文字の和歌のことをいいます。
短歌の始まりは日本最古の歴史書である「古事記」にある一節とされています。
そこから平安時代の「万葉集」では身分を問わず、貴族から一般庶民まで様々な階級の人々の作品が収録されていました。これは、今からおよそ1300年前の奈良時代には短歌という和歌文化が確立されていて、身分の上下を問わず日本の人々から親しまれていたということを意味しています。
この記事では、特に世に広まっている有名な短歌や短歌集、歌人について詳しくご紹介していきます。聞いたことはあるけど内容がよくわからないという歌があれば、ぜひ、参考にしてみてください。
短歌で有名な歌人一覧
短歌を詠む歌人にも、国語や古文の授業で一度は耳にしたことがある有名人がたくさんいます。この章では、それぞれの歌人が詠む短歌の特徴や、持ち味をご紹介します。
これを知ることにより、さらに短歌を深く味わい、その意味を吟味することができます。
日本近代文学の先駆者【北原白秋】
1885年に九州の酒蔵を営む家庭に生まれた白秋は、中学生の頃から短歌の世界にのめり込み始めました。1942年に57歳で亡くなるまで生涯詩作に精力を注いだ人物としてその作品は、今なお語り継がれています。
そんな白秋の作品は、故郷の自然を美しく表現した詩が特徴的で、読む人に懐かしい故郷を思わせるような作品が数多く残されています。
白秋は、童謡作家としても多くの傑作を世に送り出しています。「あめふり」や「ペチカ」は、誰もが幼い頃に一度は歌った記憶があるのではないでしょうか?
短歌:「石崖に 子ども七人 腰かけて 河豚を釣り居り 夕焼け小焼け」
大胆な表現で情熱的な愛を詠う【与謝野晶子】
与謝野晶子は、1878年に大阪府堺市の老舗和菓子店の三女として生まれました。12歳の頃から兄の影響で小説を読み始め、20歳になった頃には店番をしながら雑誌に自分の詩を投稿し始めます。特に有名な「みだれ髪」という詩集は、与謝野晶子の処女歌集です。
初期の頃は、女性の官能を情熱的に描写し、その大胆な表現が世間に大きなセンセーションを起こしました。そして年を重ねるにつれ、特色である官能的描写は残しつつも、より人生観の深い詩になっていくという変遷が見られます。
短歌:やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
死の直前まで詩作を続けた【正岡子規】
1867年に現在の愛媛県松山市で生まれ、松山藩士の父を持つ家の長男として育ちました。明治時代を代表する詩人として知られており、その分野は短歌だけに収まらず、俳句や小説、評論など、多方面に亘り創作活動を行なっていました。
正岡子規の短歌は、死に至るまで患っていた病に影響を受けて創作された作品が印象深く、刻々と死に向かう最中で、日常風景の1つ1つを大切に噛み締めていることが伝わるような表現から、虚しさや儚さを感じさせられる詩が特徴的です。
短歌:くれなゐの 二尺伸びたる薔薇の芽の 針やはらかに 春雨のふる
春夏秋冬の風情を詠んだ有名な短歌12選!
詩の分野の中では、俳句が特に季節感を大切にするというイメージが強いですが、短歌にもそれぞれの季節ごとに詠まれた美しい詩が数多く残っています。
ここでは特に有名な短歌を、季節ごとに一覧でご紹介します。また、その詩がどの短歌集に収録されているかも合わせて解説しますので、より短歌の知識を深めてみてください。
春の有名な短歌
①「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」
作者:小野小町
この歌は、伝説の美女として知られる小野小町が、美しく咲き誇った花が長く降り続く雨で色褪せてしまうように、年を取り、老いてしまったという心情を表しているものです。百人一首にも起用されているとても有名な春の短歌で、古今和歌集に記録されています。
②「人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香(か)ににほひける」
作者:紀貫之
この歌は、人の心は移り変わるもので、あなたが今も昔と同じ心でいるかはわかりませんが、このふるさとの梅の花は、何も変わらず昔のままに匂い立っています。という情景が描かれています。この歌も百人一首に使われており、古今和歌集に収められています。
③「わが園に 梅の花散る ひさかたの 天(あま)より雪の 流れ来るかも」
作者:大伴旅人
この歌は、まだ寒い初春の季節に、庭の白い梅の花が舞い散るのを見る度、天から雪が流れ落ちているのではと見間違うほど、美しい景色であるという心情を歌っているものです。この短歌は、万葉集に収録されているものです。
夏の有名な短歌
①「夏の夜は まだ宵ながら あけぬるを 雲のいづこに 月やどるらむ」
作者:清原深養父
この歌は、夏の夜はまだ宵のうちだと思っていたら、すぐに明けてしまう。沈む暇もなかった月は、雲のどこに隠れているのであろうか?という意味を表し、夏の夜の短さを、月が雲に宿をとったという表現で歌っています。この和歌は古今和歌集に収められています。
②「五月雨の 晴れ間にいでて 挑むれば 青田すずしく 風わたるなり」
作者:良寛
この歌は、五月雨が止んでいる間に外に出た時、青々しく育った稲の田を眺めていたら、初夏の匂いがする涼しい風が吹いて来たというシーンを詠んでいます。
③「石崖に 子ども七人 腰かけて 河豚を釣り居り 夕焼け小焼け」
作者:北原白秋
この歌は、海岸の石がきに子供が七人腰掛けて、夕焼けが今にも落ちそうな真っ赤な情景の中、河豚を釣っている景色を詠んでいます。この和歌は、雲母集に収録されています。
秋の有名な短歌
①「秋の田の かりほの庵の 苫(とま)をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ」
作者:天智天皇
この歌は、田のそばの小屋には稲を仮置きするので、その小屋に夜番で泊まった際には、苫(カヤ・スゲ)で作られた屋根の隙間から夜露が落ち、私の袖を濡らし続けるという意味です。この歌は後撰和歌集に収められています。
②「吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ」
作者:文屋康秀
この歌は、晩秋に吹く山風は、途端に草木をしおらせてしまうほど激しく、冷たいものです。だから「山風」を「嵐」というのですね。という意味です。秋の終わりを告げる激しい山風を、漢字遊びでトリッキーに表現しています。この短歌は古今和歌集に収録されています。
③「金色(こんじき)の ちひさき鳥の かたちして 銀杏ちるなり 夕日の丘に」
作者:与謝野晶子
この歌は、金色に色ずいた銀杏の葉が、まるで小さな金色の小鳥が飛んでいるかのように散っています。秋の夕日が燃える丘で。という意味です。倒置法を使い、秋の美しい紅葉を表現しています。この歌は、歌集「恋衣」に収録されたものです。
冬の有名な短歌
①「雪降れば 木毎に花ぞ 咲きにける いづれを梅と わきて折らまし」
作者:紀友則
この歌は、雪が降ったからどの梅の木にも白い花が咲いています。この中からどうやって梅の花を見分けて枝を折りましょうか?という内容です。「木毎(きごと)に」が、最後には「梅」になる、漢字の紐づきが面白い表現ですね。この短歌は古今和歌集にあります。
②「冬眠より 醒めし蛙が 残雪の うへ(え)にのぼりて 体を平(ヒラ)ぶ」
作者:齋藤茂吉
この歌は、冬眠から目を覚ました蛙が、まだ雪が残る平原の上で、体を平たくして日向ぼっこをしている様子を表しています。この歌は、歌集「白き山」に収録されています。
③「しら雪の ふりてつもれる 山里は 住む人さへや 思ひ消ゆらむ」
作者:壬生忠岑
この歌は、雪が降り積もった山里は、あたり一面を銀世界で覆うだけではなく、住む人の心さえも閉ざしてしまったのでしょうか。という意味です。雪が全ての音を吸収した冬の静けさを感じさせる短歌です。この歌は、古今和歌集に収められています。
恋心や人生を詠んだ有名な短歌6選
短歌は、作者の身の周りで起きたことを表現しているものが多いです。俳句や川柳と比べて、人の心情がよく現れているのが短歌の特徴といえます。
作者の恋心や人生観が独特の表現で描写されているので、じっくりと読むことで作者の人物像や、考え方を知れるきっかけにもなります。
恋を詠んだ短歌
①「ヒヤシンス 薄紫に 咲きにけり はじめて心 ふるひそめし士日」
作者:北原白秋
この歌は、ヒヤシンスが薄紫色の花をつけています。はじめて誰かに心をときめかせた日も、ヒヤシンスの花が咲いていました。という意味です。この歌は歌集「桐の花」にあります。
②「なにとなく 君に待たるる ここちして 出し花野の 夕月夜(ゆうづくよ)かな」
作者:与謝野晶子
この歌は、なんとなく、あなたが待っているような気がして、花の咲く野原に出ました。その野原は、夕暮れ時の美しい月に照らされています。という意味です。この歌は「みだれ髪」に収められています。
③「多摩川に さらす手作り さらさらに なにそこの児の ここだかなしき」
作者:不明
この歌は、多摩川にさらしている手織り布のように、さらさらに、何故こんなにもこの子が愛しいのでしょうか。という意味です。作者は不明ですが、「東歌」といわれています。万葉集に収められている短歌です。
人生を詠んだ短歌
①「昨日見し 人はいかにと おどろけど なほ長き夜の 夢にぞありける」
作者:慈円
この歌は、昨日会ったばかりなのに、どうして急に亡くなったのかと驚くのですが、さしずめ人生など、長き夜の夢にしか過ぎないのです。という意味です。この歌は、新古今和歌集にあります。
②「末の露 本の雫や 世の中の 後れ先立つ ためしなるらん」
作者:僧正遍照
この歌は、木末にしたたる露や、根元から伝い落ちる雫は、地面に落ちる速さの違いはあれど、結局最後には全てのものが滅びてしまうということを物語っているのでしょうか。という意味です。この短歌は新古今和歌集にあります。
③「何か思ふ 何をか嘆く 世の中は ただ朝顔の 花の上の露」
作者:不明
この歌は、何を悩んでいて、何を嘆いているのでしょうか。この世の中は、昼には閉じてしまう朝顔の上に乗る露のようなものなのに。という意味です。この短歌は、新古今和歌集に収録されています。
現代・近代でも有名な短歌は多数存在!
現代においても、素晴らしい短歌が生み出されています。有名なものだと俵万智の「サラダ記念日」という歌集は、聞いたことがあるのではないでしょうか?
昔のものに比べ、文章も現代的なのでスッと頭で理解できるのも読みやすいポイントの1つです!
現代・近代短歌3選
①「砂浜の ランチついに 手つかずの 卵サンドが 気になっている」
作者:俵万智
②「縁あって 隣で寝てる人がいて わたしのものに ならないらしい」
作者:佐藤真由美
③「待つときの 立ち位置常に 迷いつつ ドアが開けば 人に遅れる」
作者:細溝洋子
有名な短歌・短歌集と有名人の一覧のまとめ
- 短歌は5・7・5・7・7で表現される31文字の和歌
- 季節ごとに詠まれた美しい短歌を味わう
- 恋心や人生を詠んだ短歌からは作者の心情に近づける