辻占(つじうら)とは?
「辻占」とは、夕暮れ時に四つ辻(十字路)に立ち、通りすがりの人々の会話をもとに未来を読み解く占い方法の一種です。
多くの人が通りすぎる辻には霊的な力が宿り、また人間だけではなく、神や精霊も辻を通ると考えられていました。
ですので、辻を通った人が話した言葉が偶然耳に入るのは、なにか特別な意味がある神託なのだと、昔の人は考えたのです。
辻占いを理解する上で重要なのは、歴史的に見て上流階級の貴族や公家が密教や祈祷などに頼るのに対して、辻占は庶民にとっての占いであったということです。
江戸時代以来、辻占売りというものが現れて、吉凶の文句などを書いた紙片を道行く人に呼び売りするようになりました。
辻占が流行り、辻占にちなんだ菓子などもあった
辻占のみでなく辻占煎餅や、かりんとうといった占いの結果を記した紙を挟んで辻占菓子を
売るものもありました。
若月紫蘭(しらん)の『東京年中行事』によると、明治の末ごろ東京市の辻々に赤塗りの自動辻占箱が現れました。箱の穴に一銭銅貨を入れると占い札が出るようになって、これがよく売れて日本全国から朝鮮や中国にまでこの箱が設けられたと記されています。
参考 日本大百科全書「辻占」の項
辻占いは庶民の聞く占い
実際の辻占がどんな感じで行われるか、少し例を出しましょう。
例えば、自分の事業運について占いたいとき、大きな四辻で通行人が
「家の前に蛇が出たのよ」
「七時三十分に待ち合わせね」
などの言葉がやけに耳に残ると思うとき、辻占ではそれらの声は神託ととらえることができるのです。
・蛇が出た➡金運に関係がある動物➡財運に関するお告げ
・七時三十分に待ち合わせ➡7:3でチャンスを待つ、あるいは7と3に関係ある日まで待つ。
以上を合わせて、「事業に関しては財運はあるので進めるべき。7月3日、または、7月30日以降に進めるべき」
というようなことを辻占で占えるのです。
このように、日本の近世においては、庶民の占いとは誰かから神託を「聞く占い」だったのです。
辻占と橋占は夕暮れに行う
辻占に類似した占いとして「橋占(はしうら)」があります。
橋占は橋の付近に立ち、辻占のように通りすがりの人々の会話をもとに未来を占う占い方法の一種です。
辻と同様に橋は異界へ通じており、昼夜の境目である夕暮れ時に神や精霊が辻や橋を行き来すると考えられていました。
そのため、夕暮れ時に辻や橋を行き交う人々の会話に神や精霊の託宣が宿ると信じられ、辻占や橋占を行い未来の吉凶を読み解くようになったのです。
橋のたもとに立ち、通行人が何を話しているかから未来の運勢を読み解くのが、橋占師の仕事でした。
見知らぬ人が偶然話した内容の中に、自分の運命のヒントがちりばめられているという考え方が辻占と共通しています。
辻占から読み解く占いの歴史
辻占は日本古来より伝わる占い方法で、日本最古の和歌集「万葉集」に辻占に関する歌が掲載されているほど長きにわたり親しまれています。
万葉集では、当時の男女は「愛しいあの人は会いにきてくれるだろうか?」といった恋の行方を辻占で占っていました。
前述したように、平安時代から江戸期の日本において、庶民の占いとは辻占や橋占のように通行人が偶然話した内容をもとに占う聞く占いが一般的だったのです。
そのような辻占が、おみくじのような読む占いとして大衆文化となり、近代の新聞や雑誌占い、現代のインターネットメディアの占いへと進化したという経緯を知っておきましょう。