グノーシス主義とは?
グノーシス主義とは、1世紀から3世紀にかけて地中海世界とイラン、メソポタミアで流行した思想・宗教のことです。
物質世界と精神世界、真の神と偽の神といった二元論が思想の根底にあります。グノーシスは、古代ギリシャ語で「認識、知識」を意味します。
名前の通り、グノーシス主義は人間の中に存在する本質的な自分と、真の神について正しい認識と知識を得ることを思想の中心としている知性至上主義です。
異端と言われるグノーシス主義の世界観
グノーシス主義は神や肉体を否定することからキリスト教に異端として扱われていました。その原因となった考え方が霊肉二元論です。異端とされた考えを、意味も含めてわかりやすく解説します。
グノーシス主義の教義「霊肉二元論」とは
霊肉二元論とは、人間の肉体と霊魂は別々のものであるという考え方です。グノーシス主義は人の世の不幸や悲劇はすべてこの世界が悪であるが故と考えました。世界はすべて物質でできており、物質でできた肉体も悪と言えます。ならば物質でできていない「霊」こそが善であると考えました。
グノーシス主義では人の中に存在する本質的な精神が、肉体という「悪の存在」から解放され、正しい知性を得ることこそが「救い」であるとされています。
スケ番
肉体とか、霊とか、よくわかんないんですけど。
萌え袖ちゃん
今風にざっくり言うと、現実辛すぎ! の状態が「肉体」で、人生充実してすごい幸せって状態が「霊」よ。
この世界は偽りの神が創造したとする思想
グノーシス主義では、この世界を作ったのは偽の神であるとされています。なぜならこの世界を造ったのが善性の神ならば、この世にある悲劇は存在しないからです。故にこの世界は偽の神によって造られたために苦しみで満ちていると考えました。
内容を簡単にまとめますと、世界の初めに真の神たちが造った真の世界が存在しました。しかし真の神の1人ソフィア(知恵)は、自身の力を発揮しようとしてデミウルゴスと呼ばれる「偽の神」を作ってしまいました。デミウルゴスはわたしたちが生きている世界を造り、下界へと降りてくる霊魂を肉体という檻に閉じ込めました。
以上が偽りの神の経緯です。思想の中心となっている霊肉二元論の考え方にも繋がります。
グノーシス主義とキリスト教の関係
グノーシス主義の中でも西方グノーシス主義と呼ばれる一派はキリスト教と非常に近い関係にあり、キリスト教の中にグノーシス主義者が存在したほどです。グノーシス主義が語る霊肉二元論は「神が造ったこの世界はなぜ苦しみに満ちているのか」という疑問に答える一つの意見として、当時のエリートに受け入れられました。
一見するとライバルのような関係に思われますが、グノーシス主義は禁欲的でエリート主義だったため大衆に受け入れられず、異端として衰退してしまいました。しかしキリスト教に与えた影響は大きく、グノーシス主義に対抗するために信仰を曖昧な口伝だけでなく、「神学」として体系化する必要に迫られたほどです。
グノーシス主義の展開
グノーシス主義は主に地中海沿岸のローマ帝国領で広まった西方系と、イラン、メソポタミア側に広まった東方系の二つに分かれます。霊肉二元論を基本としながら、考え方に若干の違いがあるので、わかりやすく解説していきます。
ローマ帝国領に広がった西方グノーシス主義
西方系のグノーシス主義は、大衆に広まりつつあったキリスト教を取り込んで成長していました。ゆえにキリスト教と関係のある文脈について語られることが多く、「キリスト教系グノーシス派」などと見なされました。
正統派キリスト教とキリスト教系グノーシス派は区別されました。グノーシス派の者は禁欲をし、世の中にある快楽を避けて生殖行為もしてはならないとされました。彼らは体系化された思想と哲学、神話を持ち、高い理想を語り、禁欲を守っていました。しかし上述した通り、大衆には人気がなく正統派キリスト教の布教に伴い、徐々に姿を消していきました。
イラン、メソポタミア側に広がった東方グノーシス主義
東方グノーシス主義は西方系の理論とゾロアスター教の二元論に加えてイラン、インドの古くから存在する神々や神話を取り入れ成長しました。特に創世神話はゾロアスター教の影響を強く受けました。結果的に東方系グノーシス主義は、善だけが初めから世界に存在するのではなく、善と悪の両方が初めから存在したとする考えを持ちました。
二つの信徒階級を設け、一般に受け入れられる柔軟な思想に変化したことで東方系グノーシス主義は救いをもたらす宗教として広く大衆に受け入れられました。西方主義で禁止されていた生殖も、一般信徒は可能でしたので宗教として2000年以上続き、現代まで存在しています。
グノーシス主義は近現代にも影響を与えている
グノーシス主義は現代の人物にも影響を及ぼしています。最も有名な例としてはユング心理学で有名なカール・グスタフ・ユングが挙げられます。彼は道教や仏教など様々な宗教や神話を研究していました。ユングはグノーシス主義の研究家としても知られており、思想の一つである「精神的な自己」と関連するものとして人類の集合的無意識という概念を提唱しました。
他にも神秘主義やオカルティズムの分野にも影響を与えました。ブラヴァツキーの神智学や、ルドルフ・シュタイナーの人智学などはグノーシス主義の影響を受けています。
またグノーシス主義にある用語や概念は、ゲームや漫画、小説などのエンターテイメントに使われていることもあり、わたしたちにとって身近なものと言えるでしょう。興味のある方はぜひ探してみてください。
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グノーシス主義の世界観の意味のまとめ
- グノーシス主義とは霊肉二元論を中心として思想・宗教のこと。
- 霊肉二元論は肉体を悪、精神を善とした考え方のこと。
- 偽りの神とはわたしたちが生きている世界を作った物質の神のことで、真の神とは精神世界を造った神のこと。
- 西方グノーシス主義とは、地中海沿岸のローマ帝国に広がった思想でキリスト教の影響を多く受けた。大衆には受け入れられず、衰退した。
- 東方グノーシス主義はイランやメソポタミア側に広がった思想で、ゾロアスター教やイラン、インドの宗教の影響を受けた。一部の信徒は生殖行為を禁止されなかったため、長続きして現代まで生き残った。