「なし崩し」の意味とは?
まずは「なし崩し」の元々の意味、そして現在に至るまでどのように意味合いが変わっていったのかを解説します。
元々の意味は「借金を少しずつ返却すること」
「なし崩し」の「なし」は漢字で「済し」と書かれ、主にお金を返すという意味で使われます。つまり「済しを崩す」とは「借金を徐々に減らしていくこと」であり、そこから解釈を広げ「物事を少しずつ整理していくこと」としたのが「なし崩し」の本来の意味なのです。
とはいえ現代において「なし崩し」という言葉が、本来の意味で使われることはほとんどありません。というのも2017年に文化庁が発表した「国語に関する世論調査」で、「なし崩し」を「少しずつ~」という意味で使っている人の割合は20%にも満たないことが分かっているのです。
元の意味から派生した意味
本来は前向きな意味であるにも関わらず、多くの人が「なし崩し」という言葉にネガティブなイメージを持っています。なぜなら今では「無かったことにする」「既成事実を作る」などという、本来の意味と真逆の使われ方をしていることがほとんどだからです。実際、文化庁の同調査では60%以上の人が「なし崩し=なかったことにする」と誤認していることが判明しました。原因としては、「なし崩し」の「なし」が「無し」と勘違いされている可能性が考えられます。
また上記の誤用と本来の意味が合体したのか、「よく分からないまま勢いで物事が進む」という意味で使われることも少なくありません。この解釈に関しては間違いとまでは言えないものの、年配の方が「なし崩し」という言葉を用いるときは本来の意味である可能性が高いため、誤解のないよう注意してください。
「なし崩し」の正しい使い方とは?例文も紹介!
本項では「なし崩し」の正しい使い方を、間違いやすい例とあわせて紹介します。
「なし崩し」の例文
「なし崩し」という言葉を使った例文を、先に紹介した3つの意味に分けて紹介します。
意味①:借金を徐々に減らしていくこと
例文:「負債をなし崩しにする」
「銀行から借りた100万円を、なし崩しに返済していく」
意味②:物事を少しずつ整理していくこと
例文:「散らかった部屋をなし崩しに片付ける」
「残りの仕事をなし崩しにこなしていく」
意味③:物事が勢いのままに進むこと
例文:「先月出版した小説が大ヒットし、なし崩し的に映画化が決まった」
「取引先の社長と意気投合し、なし崩しに契約が成立した」
「なし崩し」は間違った使い方に注意!
言葉の意味は時代とともに変わっていくものであり、例文③のような使い方も決して間違いではありません。大事なのは「なし崩し」が一貫してポジティブな言葉であり、「曖昧に」「うやむやに」といった意味合いで使用してはならないということです。
※誤用例
「金の約束をなし崩しにする人は信用できない」
「場の空気が悪くなったので、なし崩しに会議を打ち切った」
上記のような文章が「一番しっくりくる」という方も少なくないと思われますが、このような用法は完全に誤りです。例文③も使いどころによっては、誤用例と同じくネガティブな意味だと勘違いされてしまう恐れがあるため、誤解を避けたい場合はほかの表現を選ぶといいでしょう。
「なし崩し」の類語と対義語は?
「なし崩し」は例文②のように「物事を少しずつ整理していく」という意味で使うのが最も安全であり、別の表現を用いる際は「少しずつ」の類語を探すことになります。「徐々に」「着実に」といった言葉はもちろん、文章を柔らかくしたい場合は「ちょっとずつ」「ジワジワと」など漢字を使わない言葉にするのも良いでしょう。
一方「なし崩し」の対義語は「少しずつ」の反対、すなわち「一気に」「トントン拍子で」といったスピード感のある言葉になります。例文③のように「物事が勢いのままに進む」といった意味で使う場合は、これらの対義語を用いたほうが分かりやすく、なおかつネガティブな誤解をされる心配もありません。
「なし崩し」を英語で何と言う?
なし崩しは英語で「little by little」と表記され、意味はやはり「少しずつ」です。このように解釈の難しい言葉であっても、外国語に訳してみると本来の意味を理解しやすくなることが多々あります。一方で日本語は意味のハッキリしない言葉が多いぶん、1つの意味や事象を表すときに言葉の選択肢が豊富であり、どちらの言語が優れているというわけではありません。
ただ言葉そのものに多くの意味が込められていた場合、どうしても誤用や誤解は生じてしまうものです。人とコミュニケーションを取る際は、用いる言葉の意味を自分で理解しておくだけでなく、その言葉を相手がどのように受け取るかも想像しながら話してみてください。
「なし崩し」の意味と使い方のまとめ
- 「なし崩し」は元々「借金を少しずつ返す」という意味であり、転じて物事を少しずつ整理していくさまを表す言葉として使われるようになる。
- 「なし崩し」は現代において「曖昧にする」「うやむやにする」などの意味で使われることが多いものの、「なし崩し」という言葉にそのようなネガティブな意味合いは全くない。
- 「なし崩し」の類義語は「徐々に」「着実に」「ジワジワと」、対義語は「一気に」「トントン拍子で」など。