俳句や短歌で使われる「切れ字」とは?
「切れ字」とは、俳句や短歌で意味の切れるところ(区切れ)に置く言葉のことです。わかりやすく言うと、句点の「。」を置く位置に入れる言葉です。
この「切れ字」は、詠み手が一番強調したいところ、つまり読み手に一番注目してほしい句の後に置くものとされています。以下に、例を上げて見てみましょう。
例えば、「五月雨や大河を前に家二軒」の俳句でいうと、発句の「五月雨(さみだれ)」の後の「や」が切れ字となります。これは蕪村の俳句ですが、彼は、毎日毎日降り続く五月雨に対する思いを強調するために切れ字の「や」を置いています。
次に持統天皇の詠んだ「春過ぎて夏来(きた)るらし白たへの衣干したり天の香具山」という短歌を見てみましょう。
短歌の場合は、切れ字というよりも「句切れ」がどこか、を考えた方がわかりやすいでしょう。この短歌では、「らし」という推量を表す助動詞の終止形が置かれているところが句切れとなります。つまり、この短歌で「。」を入れてみると、「春が過ぎて夏が来るらしい。白い衣が干してあるから、ほら天の香具山に」となります。
このように切れ字は、その俳句や短歌の意味の切れ目に入れられる言葉です。覚え方としては、「句切れ」=「切れ字が入っているところ」と理解しておくと良いでしょう。
俳句や短歌で「切れ字」が必要な理由は?
では、どうして俳句や短歌に「切れ字」や「句切れ」が必要なのでしょう。
その理由は3つあります。まずは前述した通り、詠み手が一番強調したいところをわかりやすくするためです。
2つ目の理由は、俳句や短歌にリズムを持たせるためです。元々俳句や短歌はリズムや韻を楽しむものなので、これも大切な理由と言えます。
最後に3つめの理由は、切れ字を入れることで生まれる効果にあります。切れ字を入れることで意味の切れ目を作って、「それでどうなるの?」と、読み手にその後に続く内容について期待させる効果が生まれるのです。
俳句「五月雨や大河を前に家二軒」の例を用いて見てみましょう。
まず、「五月雨や大河を前に家二軒」ですが、この俳句の句切れは切れ字の「や」がある「五月雨や」でしたね。ここで一旦途切れが生じます。すると読み手は、「五月雨がどうしたっていうの?」と耳をそばだてます。そして「大河を前に家二軒」と続くことを知って、初めてここでその情景を目に浮かべてほっとするわけですね。
持統天皇の短歌「春過ぎて夏来(きた)るらし白たへの衣干したり天の香具山」も同じです。
意味が「夏来るらし」で一旦途切れます。読み手は「夏が来るらしい、ってどうしてそれがわかるのよ」と思って次の言葉を待ちます。そしてその次に続く「白たへの…」の部分で、初夏の青空、緑したたる山、そして真っ白い衣が風になびいている光景を思い浮かべて、そうだったのか、と納得するわけです。
このように短歌や俳句に切れ字を入れることで、「強調したいところをわかりやすくする」「リズムを作る」「読み手の興味を引く」という3つの効果を期待できます。
切れ字はいくつある?
戦国時代の連歌詠みで有名な里村紹巴(じょうは)は、「切れ字は22個ある」と言っていたそうですが、芭蕉は「すべてのいろは文字を切れ字に使うことができる(つまり48個ある)」と言ったそうです。
現代では、連歌の時代(鎌倉~室町時代)に使われていた18個が切れ字として使われています。
切れ字十八字とは
切れ字十八字とは、連歌の時代から引き継がれてきた18つの切れ字のことです。
具体的には、かな・けり・もがな・らん・し・ぞ・か・よ・せ・や・つ・れ・ぬ・ず・に・へ・け・じ、のことを言います。
ただ現在は、これらの中でも、強い詠嘆を表す切れ字、「や・かな・けり」の3つが使いやすさもあって、好んで使われています。
俳句や短歌の意味を理解するためには、どこに句切りがあるかを見つける必要があり、そのためには切れ字を覚えておく必要があります。しかし、効果的な覚え方がない18個の切れ字をすべて覚えるのも大変なことですよね。せめて、現在も頻繁に使われている3つの「や・かな・けり」だけはすぐに見つけられるように頭に入れておきましょう。
現在使われる「や」「かな」「けり」の意味
ここでは、現在最もよく使われている切れ字の「や」「かな」「けり」の意味についてわかりやすく説明します。
■「や」…詠嘆を表す切れ字で、どんな言葉の後にも入れることができます。細かいルールなどはありません。俳句や短歌の切れ字としてとても使いやすく、リズムや余韻を生み出す効果もあります。
例:閑(しず)かさや 岩にしみ入る 蝉の声(芭蕉)
この「や」があることで、「ああ、静かだなあ」とその静けさに深く感じ入っている詠み手の心情が表されます。
■「かな」…俳句や短歌の最後に置く切れ字です。どうして最後に置くかというと、この「かな」によって大きな余韻が生まれるために、その後に言葉を続けても意味がつながっていかず、不自然になってしまうからです。
例:しばらくは 花の上なる 月夜かな(芭蕉)
最後に「かな」があることで、「今しばらくは花の上にある月を愛でていよう。すぐに月は傾いてしまうのだから…」と、煌々と花を照らしている月を眺めてその時間が過ぎていくのを惜しんでいる気持ちがうまく表されています。
■「けり」…この切れ字も詠嘆を表すために俳句や短歌において、用言や助動詞などの活用をする言葉の後ろに置かれます。最後に置かれることが多いのですが、中ほどに置かれることもあります。
例:花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに(小野小町)
これは中ほどに切れ字として「けり」が使われている例です。「ああ、桜の花は色あせてしまったなあ…」といった、時の移ろいに抱いた感慨を表しています。
このように、「や」・「かな」・「けり」は、詠み手の深い心情や驚嘆や感慨を表す現代の三大切れ字と言えるものだということを覚えておいてください。
切れ字と係り結びの関係
係り結びに関係のある切れ字には、常に最後に置かれる切れ字「けり」があります。切れ字「けり」は終止形ですが、これが文中に強調や疑問を表す係助詞の「ぞ・なむ・や・か・こそ」が使われると、「ける」という連体形や「けれ」という已然形に変わるのです。
ちょっとややこしいのですが、覚え方としては「けり」の場合、已然形の「けれ」に変わるのは「こそ」という係助詞が使われた場合だけ、と覚えておくとよいでしょう。
以下に例を上げて説明していきます。
係り結びとは
係り結びとは、文中に登場する係助詞「ぞ・なむ・や・か・こそ」と最後の結びの語の関係を表すものです。つまり、文中に係助詞が使われた場合、最後の活用語が「連体形」から「已然形」に変化するというものです。
以下に係り結びによって最後の活用形が変わる例を上げて紹介しますね。
■切れ字以外の例:ただ、夜ぞひときはめでたき(徒然草)
これを係助詞を使わずに言うと、「ただ、夜はひときわめでたし」になります。そこに強調を表す係助詞「ぞ」を入れることで、最後の「めでたし」が連体形の「めでたき」になっています。
■切れ字「けり」の例1:滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ(藤原公任)
この場合の係助詞「こそ」は強調です。それを受けて、最後の切れ字の「けり」(終止形)が「けれ」(已然形)に変化しています。「名声は未だに語り継がれていることよなあ」という感慨を表しています。
■切れ字「けり」の例2:名をば、さぬきのみやつことなむいひける(竹取物語)
この場合の係助詞は「なむ」で、やはり強調を表しています。それを受けて最後の切れ字「けり」(終止形)が「ける」(連体形)に変化をしている例です。
このように切れ字には、そのまま使われる場合の他に、強調の係助詞を受けて形が変化する場合があります。切れ字の用法は複雑ですので、覚え方を頭に詰め込むよりも、まずは数多くの俳句や短歌に触れて、その言い回しなどに慣れていくと良いでしょう。
俳句・短歌の切れ字のまとめ
- 切れ字=句切りで、句点「。」を入れる位置を考えることで句切りが見えてきます。
- 切れ字十八字というのがありましたが、主に現在使われているのは、「や」・「かな」・「けり」の3つです。
- 係り結びとは係助詞と結びの言葉の関係のことです。強調を意味する係助詞が使われると、文末の「けり」が変化します。
俳句や短歌で使われる「切れ字」とは?