「くわばらくわばら」の意味とは?
「くわばらくわばら」の意味は、落雷を避けるために唱える雷除(よ)けのおまじないです。人々はかつて雷を超自然的な現象と考えていました。雷鳴に神の存在を意識して「神鳴り」という漢字を当てたり、落雷で出現した妖怪「雷獣」を目撃したりと、雷にはさまざまな畏怖の念を寄せてきました。おまじないの「くわばらくわばら」もその一つです。
「くわばらくわばら」は「桑原桑原」が語源?
「くわばら」を漢字にすると「桑原」、つまり「くわばらくわばら」の語源は「桑原桑原」です。この「桑原」は人名でも地名でもなく、桑畑のことです。
養蚕が盛んであった時代、蚕のエサとなる桑の葉は魔除けの力を備え、桑の木に雷は落ちないと信じられていました。そこで、雷除けするために家の周りに桑を植え、軒先に桑の枝を吊るしました。外出中に雷鳴が聞こえたら桑の畑にもぐり込み、桑原が近くになければ「桑原桑原」とおまじないを唱えて、落雷の難を免れようとしたのです。
「くわばらくわばら」の由来
「くわばらくわばら」の由来は、天神様こと菅原道真にまつわる伝説です。道真は異例の抜擢で学者から右大臣に出世しました。しかし、政敵の藤原時平の画策で太宰府へ左遷され、失意の中で没します。
するとその直後から、平安京を天変地異が襲い、時平の一族に凶事が相次ぎました。五年後も落雷は止まず、ついに内裏の清涼殿に直撃して都は炎に包まれますが、道真の領地だった桑原は無傷でした。
人々は道真公の怨霊が雷神となって復讐していると確信し、雷が襲来すると、雷公こと道真に「くわばらくわばら(ここは桑原ですよ、雷を落とさないでください)」と唱えるようになりました。
この他に、各地に雷様と桑原にまつわる由来があります。雷様が空から誤って井戸に落ち、村人や寺の和尚に助けてもらったお礼に「桑原には二度と雷を落とさない」と約束して去ったのが大筋です。これは兵庫県三田(さんだ)市の欣勝寺や大阪府和泉市の西福寺が有名です。
長野県千曲市桑原の場合、雷様は「雷は桑の木が嫌い。くわばらと3回唱えると雷が落ちない」とおまじないを教えてくれます。
山形県の場合、雷様が助けてくれたことに感謝して名を尋ねると、老夫婦が「一族郎党、桑原と言う」と答えます。
テレビアニメ「日本むかし話」では、雷の仕事を手伝っていた男の子が空から落下した時、桑の木に引っかかって助かったため、雷様は桑の木に雷を落とすのを止めたという『雷さまと桑の木』が紹介されました。
「くわばらくわばら」の正しい使い方は?
「くわばらくわばら」の正しい使い方は、何か厄介ごとに見舞われそうなときに、厄除けのおまじないとして使います。「くわばらくわばら」と2回重ねて唱えることがポイントです。
本来の雷除けに関しては、おまじないの他に、蚊帳(かや)を吊ってその中に入る、雷が煙を嫌うから縁側で線香を焚くなどがあります。
このように「くわばらくわばら」は雷除けから転じて、地震、火事、事故などの災難除けや、忌まわしいことを避けるおまじないとしても使われるようになりました。
江戸の書物に、厄介なことを聞き及んで累(るい)が及ぶことを避けるには、頭をおさえながら顔をしかめて「くわばらくわばら」と言うとあります。
また、大声で怒鳴りつけることを「雷を落とす」と言いますが、親などに叱責されそうな時は小言除けに「くわばらくわばら」と念じます。
避雷針が発達した現代では、「くわばらくわばら」で雷を忌避する意味合いはうすれてきました。その代わりに、自分の力が及ばない状況で困難なことに巻き込まれないようにと願う気持ちがこめられています。以下のように使います。
・うっかり毒キノコを食べるところだった。くわばらくわばら。
・この角で二日続けて衝突事故があったそうだよ。気をつけないと、くわばらくわばら。
・部長、家で何かあったのかな、虫の居所が悪そうだよ、くわばらくわばら。
「くわばらくわばら」は年配者しか使わない?
地震や雷が起きた時、誰かに不幸があった時、忌まわしいことを祓(はら)うように「くわばらくわばら」と念じる年配者の姿もまれになりました。しかし、「くわばらくわばら」は古色蒼然としたおまじないではありません。天災や不幸をやり過ごそうという庶民の信仰心や願いが込められているだけでなく、経験則に基づく知恵があり、このまま死語にしてしまうには惜しい言葉です。
一方で、若者世代のカルチャーに「くわばらくわばら」が登場する例が見られます。テレビアニメ『日本昔ばなし』は雷と桑の木の民話をアニメの形に残し、映画アニメ『もののけ姫』ではジコ坊がこのおまじないを口にして、知略家ながら祟りを怖れるキャラクターを印象づけました。
ゲームソフト『メタルギア』や『ドラクエ11』のセリフに使われた「くわばらくわばら」も子供の関心をひきつけています。Dreams Come Trueは楽曲(KUWABARA KUWABARA)で、恋人との同棲が発覚したら親の雷が落ちると焦る年頃の娘を描きました。
昔、「くわばらくわばら」は謡曲の『道成寺』、狂言の『神鳴』、歌舞伎などの・狂言を通して一般に広まった歴史をもちます。このおまじないの潜在的な魅力がアニメやドラマで発揮され、継承される可能性は低くはありません。
「くわばらくわばら」の類義語
「くわばらくわばら」の類語で知られているのは「つるかめつるかめ」で、漢字なら「鶴亀鶴亀」ですね。縁起でもないことを言ってしまった時、不吉なことがあった時に、災厄を避けるために長寿でおめでたいとされる鶴と亀を並べた言葉で縁起直しをしました。
同じような状況で、信心深い人は「なんまいだぶ」「南無妙法蓮華経」とつぶやいて怖いことから逃れようとします。これらも「くわばらくわばら」の類語です。
「くわばらくわばら」は雷除けのおまじないですが、「世直し」は雷除け、地震除けのおまじないです。浄瑠璃に「世直し桑原と、生たる心地はなかりけり」と使われています。「世直し」の類語では「万歳楽(まんぜろく)万歳楽」という言葉が、地震が起きた時に揺れを抑えるために唱えられます。江戸時代に安政の大地震が起きた時、不安な気持ちを和らげて身を守ってくれるおまじないとして、地震の原因となった鯰をこらしめる構図の「鯰(なまず)絵」が流行しました。
「くわばらくわばら」の意味・由来や使い方のまとめ
- 「くわばらくわばら」の語源は桑畑を表す「桑原」。
- 「くわばらくわばら」の由来は学問の神様、菅原道真の祟り。
- 「くわばらくわばら」は落雷や災難を避けるために唱えるおまじない。
雷を神様としてとらえた