ユートピアの意味とは?
ユートピアと聞くと、私たちは何を意味するものとイメージするでしょうか?みんなが楽しくのびのびとして、かつ争いなく暮らすような理想郷をイメージしがちです。
このユートピアはよく「理想郷」と訳されますが、具体的にどのようなものなのでしょうか?今回はユートピアの意味について見ていきます。
ユートピアという言葉自体はギリシア語から来ているものです。ギリシャ語で「ない」を意味する「ウー」と、「場所」を意味する「トポス」を掛け合わせて、英語で「現実世界のどこにもないような理想郷」という意味で生まれました。
ユートピアの語源は本のタイトル?
ユートピアの言葉ができたのは、今から400年以上昔、16世紀のイングランドにおいてです。当時の法律家にトマス・モアという人物がいて、彼が書いた同名の本が語源となります。
このためユートピアについて正確な意味を知るには、この本の著者であるトマス・モアがどのような人物だったのかについて知る必要があります。
Utopia(ユートピア)の著者「トマス・モア」とは?
ユートピアの言葉を生み出したトマス・モアは、16世紀のイングランドで活躍した法律家です。代々法律家の家に生まれて法律を学んだあと、時の国王であるヘンリー8世に仕えます。
当時のヨーロッパは大航海時代で、モア自身もアメリカ大陸を探検したアメリゴ・ヴェスプッチの報告書を読んで、世界のどこかに争いも格差もないような理想郷があると考えるようになりました。またイングランドでは囲い込みと呼ばれる牧場の独占が行われ、その陰で多くの農民が失職する事態になっていました。これらの社会的背景を見て取った彼は『ユートピア』を執筆して、自由で平等な社会の理想像を示しました。
ただしモア自身の最期は悲惨なもので、ヘンリー8世が英国国教会を設立してカトリックから独立をもくろむと、宗教面でカトリックを信じていた立場からこれに反論します。この反論により国王の怒りを買い、ロンドン塔に幽閉された後処刑されました。
本で描かれているユートピアはどんな場所?
『ユートピア』でトマス・モアが示した理想郷の姿とはどのようなものなのでしょうか。実は彼が示したユートピアの姿は、現代の私たちが思い描く理想郷とは少し異なります。
モアが描いたユートピアとは、他の国々から孤立した島にできた国で、そこに住む人々は貧富の差がなく個々の財産もないのが特徴です。また衣服を美しく着飾って、1日6時間の農作業以外は芸術や研究にいそしむ生活をしています。
経済的には貧富の差もないうえ、生活必需品は共用の倉庫から取り出して使えるような飢えない社会ですが、一方で管理が厳しく住民にも個性がないという暗くなるような特徴もあります。
ユートピアの類義語と対義語
ユートピアの類語に、「アルカディア」があります。アルカディアはユートピアと同じように日本語で「理想郷」と訳されます。ユートピアと異なる点は平和ではあるものの牧歌的でみんながのびのびと暮らすような世界であるという点です。この意味では管理が厳しくのびのびできないユートピアと異なります。
一方ユートピアの対義語が「ディストピア」です。ディストピアは「反ユートピア」の意味を持ち、貧困も紛争もない一方で、厳しい統制や反対者への粛清、表現の自由に対する制限、情報統制があるというのが大きな特徴とされています。
ディストピアという言葉自体は19世紀にできました。本格的に広まったのは20世紀に入ってからで、その背景には社会主義革命でソ連が成立したことやドイツなどでファシズムが台頭したことにあります。ディストピアは主に文学作品で描かれ、そこには理性で人間を統制するには限界があるという考え方がちらついているのが特徴です。
ユートピアの意味と語源のまとめ
- ユートピアはギリシア語が語源で、「現実世界のどこにもないような理想郷」という意味で生まれた。
- ユートピアは16世紀イングランドの法律家であるトマス・モアの著書で登場した。彼は大航海時代や国内で進んでいた囲い込みといった社会的状況から『ユートピア』を執筆した。
- ユートピアは格差や住民個人の財産がなく、住民も6時間の農作業以外は芸術や研究に時間を割いている。その一方で管理社会で人々に個性が見られない。
- ユートピアの類語に「アルカディア」があり、こちらはユートピアと異なり牧歌的でのびのびと暮らせる理想郷を指す。ユートピアの対義語は「ディストピア」で、こちらは貧困や紛争がない代わりに厳しい統制や粛清が存在する社会を意味している。