キビヤックとは?
キビヤックとは北ツンドラ地帯に住む民族に伝わる食べ物で、伝統的な発酵食品、漬物の一種です。カナダのイヌイット民族、グリーンランドのカラーリット民族、アラスカ州のエスキモー民族によって今も食べられています。
ツンドラ地帯に住む彼らにとって、キビヤックは重要なミネラル・ビタミン源の一つで、簡単に食卓に上がることのないご馳走でした。
キビヤックの材料と製法
キビヤックの材料はアザラシとアパリアス(海鳥の一種)を使います。
製法は……
- まず獲れたアザラシの腹部を裂き、内臓と肉をすべて取り除きます。このとき、皮下脂肪だけは残します。すると、アザラシが綿のないぬいぐるみのような姿になります。キビヤックでのアザラシは食材というよりも、容器としての役割が大きいようです。
- 次にアザラシの内部に羽をむしっていないアパリアスをそのままの形で詰めていきます。なんと300羽から700羽近くのアパリアスを詰め込むのだそうです。
- 詰め込んだら、アザラシの腹部を縫い合わせます。ちなみにアパリアスを詰め込むポイントは空気が入らないようにぎちぎちに詰めることです。空気が入り込みすぎると発酵せずに腐ってしまいます。
- 次の工程ではアザラシのお腹を縫い合わせ、縫合口にハエが卵を産まないようにアザラシの脂(日干ししたアザラシの脂・プヤ)を塗ります。この時にアザラシの中の空気抜きを行います。
- 最後にアパリアスを詰めたアザラシを地中に埋め、腐ってしまわないように日除けをして、さらに土の中の空気抜きを行います。場所はそれほどこだわらなくても大丈夫です。キツネに食べられないように上から石を積んで覆い、そのまま後は熟成させます。
熟成期間は短くても2ヶ月から長いと数年間にもなります。食べる時は地面を掘り出し、アザラシの中からアパリアスを取り出して食します。この時アザラシは食べずに中に入っているアパリアスのみを食べるのだそうです。
上京君
アパリアスって鳥はいっぺんにそんなにたくさん獲れるの?
ゆめかわちゃん
アパリアスはものすごく密集した群れをつくるの。タモ網を構えているだけで、200羽から300羽獲ることができるのよ。
キビヤックの味・匂いなど特徴
キビヤックの味は美味とされています。人によっては「ヨーグルトの様な味」「海苔をゴーダチーズに巻いたような味」「濃厚な鶏肉のような味」「納豆と塩辛を足して2で割ったような味」など、感じ方は様々ですが、味の感想からイメージしていくと、乳製品と発酵した磯の味が混ぜ合わさったものだと推測できます。
キビヤックを食したことのある冒険家の植村直己氏は「キビヤックが美味しいのは発酵していく過程でアザラシの皮下脂肪と混ざるからだ」と語っていたそうです。
おそらく鶏肉の風味はアパリアスの肉から、乳製品が発酵した味はアザラシの皮下脂肪からだと思われます。アザラシもアパリアスも海で生活しているのでおそらくそこから磯の風味がするのではないかと考えられます。アパリアス自体は茹でて食べると血の味が濃い、深みのある味がするそうです。
続いて臭いですが、かなりきつい部類に入ります。くさや、ホンオフェ、シュールストレミングは臭いことで有名ですがキビヤックもそこに並びます。匂いを嗅いだ人の中には糞のような臭いで、臭いが強烈過ぎて近づくことすら嫌になると話す人もいるようです。
アラバスターという臭気測定器を使って数値化すると、キビヤックの数値は1370を記録しています。くさやが1267なのでくさやよりキビヤックは臭いということになります。ちなみ世界で一番臭いとされるシュールストレミングは8070と次元の違う臭さを誇っています。納豆が452なので、キビヤックは納豆の3倍臭いということになります。
上京君
キビヤックを食べた植村直己さんは、その美味しさに魅了されて危険な冒険中なんども盗まれてしまったキビヤックを気にかけていたんだってさ~!
ゆめかわちゃん
そうそう、普段は気前がいい人なのにキビヤックにはすごい執着をもっていたみたい。基地と交信するたびにどうなったかを聞いていたらしいわ。