テセウスの船の意味とは?
「テセウスの船」とは、アイデンティティに関する思考実験の1つです。ギリシャ神話が由来の問題で、概要は以下の通りです。
「英雄テセウスは船を持っていました。船は長い年月の中で帆、舵、船板などのあらゆる部品が朽ちてしまいます。そこで新しい部品と入れ替えるのですが、もし全ての部品が新しい物に完全に入れ替わった場合に、テセウスの船は部品を入れ替える前の船と同じであると言えるのでしょうか?」
また、ここから派生した問題があります。入れ替えた古い部品を集めて別の船を組み立てた場合、その船はテセウスの船と呼べるか否かです。こちらは素材はテセウスの船ですが、同じような機能を持っているか疑問です。テセウスが所有していないのもポイントです。
テセウスの船のパラドックス
パラドックスとは「一見矛盾しているが、論理的に考えてみると矛盾していない」という意味の哲学用語です。テセウスの船もパラドックスの一種です。船を構成する部品がすべて入れ替わっている場合、確かに素材は違いますが、機能や形は変わりなく同じ船と言えるでしょう。
逆に素材に着目すれば、入れ替える前と違う素材を使っているので違う船と言えます。このように一見矛盾しているようで矛盾していないものやそもそも論理的に矛盾しているものがパラドックスです。
テセウスの船の問題は哲学者によって答えが異なります。「船としての機能が同じなら、同じ船だ」という機能に重きをおいた意見もあれば「元の素材は一切使われていないのだから違う船だ」という素材を重視した意見もあります。これはどちらも間違ってはいません。どちらのアイデンティティを重視するかによります。
アイデンティティについての哲学
テセウスの船で問題となっているアイデンティティについてご説明します。ここで言われているアイデンティティとは「AとBを比較して同じか否か」という意味の哲学用語で、同一性と呼ばれることもあります。
哲学の世界では外見が同じであれば「外見のアイデンティティが一致している」、本質が同じであれば「本質のアイデンティティが一致している」という言い方をします。テセウスの船に置き換えるなら「外見のアイデンティティは一致していないが、本質のアイデンティティは一致している」という言い方ができます。
他にもアイデンティティについてギリシャの哲学者ヘラクレイトスが「同じ川に2度入ることはできない」という主張を残しています。ヘラクレイトスの主張は、水に焦点を置いたものです。哲学的な言い方をするなら「外見のアイデンティティが一致していない」でしょう。