身近に存在する「テセウスの船」の例
ヘラクレイトスの他にもテセウスの船と似たような問題が身近には存在しています。いくつか紹介しますので、この機会に哲学の世界に触れてみましょう。
うなぎ屋のタレ
うなぎ屋の中には、創業以来継ぎ足して使っているタレを秘伝にしているお店が存在します。うなぎのタレは数年で入れ替わるのですが、継ぎ足し続けたうなぎのタレが完全に入れ替わる時間を計算した方がいます。計算によると、古いタレの割合は3年で1割を切り、10年で0.67%とほぼ入れ替わります。
こうなると10年前のタレと言えるか疑問です。創業以来継ぎ足して使っているという点では同じと言えますが、創業当時のタレは一切残っていないということを考えると違うタレであるとも言えます。
アイドルグループ
アイドルグループも、長く続けばメンバーはもちろん所在地や所属先などが変わります。モーニング娘やAKBが良い例です。モーニング娘は2005年1月の時点で結成当時のメンバーは全員卒業してしまいました。
その後も新メンバーの加入、卒業は行われ、グループ名も西暦の下二桁を付けて「モーニング娘。'14」など毎年改名して続いてきました。2014年11月には、結成時メンバーが卒業していた年に在籍していた最後のメンバーが卒業し、2回目の入れ替えが完了しました。
AKBは結成時メンバーがかろうじて残っていますが、いずれ全員卒業する可能性もあります。法的には同じ組織として認められていますが、所属メンバーという点で見ると同じかどうかは意見が分かれます。これもテセウスの船と言えるでしょう。
再生医療・サイボーグ化
近年話題になっている再生医療ですが、これも技術が進歩すればテセウスの船と類似する話になります。再生医療の進歩によって、体はもちろん脳細胞もすべて新しい物へと変わった場合、何を持って自分とするのか、という問題がでてきます。
自己同一性に関わる重大な問題で、テセウスの船とは少々毛色が異なるでしょう。この問題に触れている漫画・アニメ作品として、「攻殻機動隊」があります。全身がほぼサイボーグになった主人公が、自分とは何かについて思い悩む場面が存在しています。
全身サイボーグの人間は果たして人間と呼べるのか、肉体という構成要素がすべて入れ替わった場合、それは以前の自分と言えるのか、興味のある方は視聴してみると何か発見があるかもしれません。
変わるもの変わらないもの
世の中とは常に移り変わるものです。鴨長明も方丈記の冒頭では「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と世の無常を記しています。しかし、変わっていくものの中には変わらないものも存在します。テセウスの船のように部品がすべて変わったとしても、海の上を行く船であるという本来の性質は変わりません。
近年は技術の進歩により身の回りの環境がどんどん変わってきていますが、昔ながらの習慣や文化、人の本質など変わらないものは必ずあります。変化の速い時代だからこそ昔から変わらず受け継がれてきた、古き良きものを大事にしたいですね。
テセウスの船の他にも、さまざまな思考実験が存在します。当サイトには他にも哲学的問題について触れている記事がありますので、ぜひご覧ください。
テセウスの船の意味と由来、具体例のまとめ
- テセウスの船とはギリシャ神話を由来とした、アイデンティティに関する思考実験の1つ。
- パラドックスとは一見矛盾しているが、論理的に考えると矛盾していないこと。
- アイデンティティとは「AはBと同じか否か」という同一性を意味する。
- テセウスの船に似た話として「うなぎのタレ」「アイドルグループ」「再生医療・サイボーグ」などがある。
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