通過儀礼とは?
通過儀礼とは、フランスの人類・民俗学者のA.ファン・へネップが提唱した言葉です。日本にも古くから続くさまざまな通過儀礼が存在します。七五三や成人式、結婚式などが通過儀礼にあたります。このような、人生の重要な儀式は現在でも行われていますが、人々の意識や社会の変化に伴い多くの儀式が廃れつつあります。ここでは通過儀礼の意味や、どのような儀式があるのかについて解説していきます。
通過儀礼の意味
人生における誕生、成人、結婚、死などの段階的な節目に行う儀式を通過儀礼といいます。子供の成長の祝いや、社会の中での身分の変化、新しい役割を得たときなどに儀式を行います。また宗教上の重要な節目の意味でも、通過の儀式を行います。
通過儀礼の使い方や例文・類語
通過儀礼という言葉の使い方の例文と類語を紹介します。
【使い方と例文】
人生の段階的な節目の儀式という本来の意味として使う場合の例文です。
- 「七五三のお宮参りは、子どもの健康と成長を祈る通過儀礼です。」
- 「成人式とは、未成年が一人の大人として認められる通過儀礼です。」
- 「新入社員のスピーチは、我が社の通過儀礼のようなものです。」
【類語と意味】
通過儀礼の類語として、「人生儀礼」という言葉があります。通過儀礼と人生儀礼は同じ意味合いで使われる場合もありますが、通過儀礼を広い意味とし、人生儀礼を少し狭い意味とすることもあります。
個人の成長過程に伴って行われる儀礼を、人生儀礼といいます。
子どもの通過儀礼とは?
子どもが生まれてから成長していく過程で、様々なお祝い事があります。ここでは子供の通過儀礼とその意味について詳しく解説していきます。
帯祝い
帯祝いとは、おなかの赤ちゃんの安産を祈願する儀式です。安定期に入る妊娠5ヵ月目(16~19週頃)の戌の日に「岩田帯」と呼ばれる腹巻を巻くことで子供の成長と安産を願う通過儀礼です。戌の日に行うのは、お産の軽い犬にあやかるという意味があります。
出産
子どもが誕生すると、「産飯(うぶめし)」と呼ばれる飯を炊きます。産飯とは、出産直後に神仏に供える飯や料理です。この通過儀礼には、産婦や新生児を悪霊から守るという呪術的な意味があり、地域によっては「一生食べ物に困らないように」という願いが込められています。
産飯は近所の人や産婆、お世話になった人などにも食べてもらうと、子どもがよく育つと言われています。
また、「産湯(うぶゆ)」も通過の儀式のひとつです。生後すぐ身体を洗う湯が産湯と思われがちですが、実際は3日目に入浴させる湯のことを産湯といいます。産まれてすぐの子どもはあの世から穢れを持ち込んでいると考えられていたため、この世で丈夫に育つようにという願いが込められた儀礼です。
新生児を洗った湯は日の当たらない場所や、産室の床下などに捨てられます。
お七夜
子どもが産まれて7日目の夜に行う通過儀礼を「お七夜」といいます。この日に赤ちゃんの名前を決め、健やかな成長を願います。
また、赤ちゃんを社会の一員として認めてもらう意味もあります。
お宮参り
お宮参りは子どもの健康と長寿を祈る通過儀礼で、男の子は生後31日または32日目、女の子は32日または33日目にその土地の氏神様を参詣します。地方によっては生後50日目や100日目に詣でるなど、しきたりが異なることもあります。参拝予定の神社、または氏子さんに事前に確認をとりましょう。
お宮参りの儀式には、子どもの幸せを祈るという意味があります。
また現在では、子どもの体調や家族の都合に合わせて参詣する日を決めることも多いです。
お食い初め
お食い初めの通過儀礼は、赤飯や尾頭付きの鯛などの膳を用意し、歯が生え始めた生後100日目の子どもに食べるまねをさせるお祝い事です。食べるまねには、「一生食べ物に困らないように」という意味があります。
七五三
七五三の通過儀礼は子どもの成長の節目として、3歳、5歳、7歳で行うお祝い事です。子どもたちは着物などの晴れ着を着て、11月15日に神社にお参りします。男の子は3歳と5歳、女の子は5歳と7歳で行うのが一般的です。
子どもに持たせる千歳飴には、健康に成長し、長生きするようにという意味があります。
十三参り
十三参りは、旧暦の3月13日前後(新暦で3月13日から5月13日)に数え年で13歳の男女が行うお祝いの通過儀礼です。13歳とは、生まれてから干支が一回りし、初めて迎える厄年です。十三参りには、その厄を祓うという意味が込められています。
成人の通過儀礼とは?
社会の一員となってからの重要な通過儀礼とその意味を説明していきます。
成人式
成人式は一人の大人として迎える初めての通過儀礼です。大人と認められ、社会の仲間入りをすることを自覚するために行う通過の儀式です。
以前は1月15日が「成人の日」でしたが、現在は1月の第2月曜日となっています。
また現在の成人式は、1946年に埼玉県で行われた「青年祭」がルーツになっています。第二次世界大戦後、未来を担う若者が希望を持てるようにという意味が込められています。
結婚
血縁関係のない男女が結婚し夫婦となることも、人生における大きなお祝い事の通過儀礼です。結婚式や披露宴を行うのは、夫婦としての新しい出発を家族や親戚、お世話になった人たちに披露するという意味があります。
厄年
お祝い事ではありませんが、厄年、厄祓いも通過儀礼のひとつです。厄年の年齢は一生の中で、体力的、社会的、また家庭環境においても転機を迎えることが多い時期で、災いが起こりやすいとされています。
男性は25歳、42歳、61歳で、女性が19歳、33歳、37歳、61歳で、この年齢の前後を前厄、後厄とします。
厄年を迎えると災いから身を護るという意味で、神社に参詣して厄祓いの儀式(厄除け)が行われます。
長寿の祝い
長寿の祝いは満60歳で迎える還暦から始まります。その後は、古稀(70歳)、喜寿(77歳)、傘寿(80歳)、米寿(88歳)、卒寿(90歳)、白寿(99歳)など、節目ごとに祝う通過儀礼です。長寿を祝い、長寿にあやかるという意味があります。
「還暦」のみ満年齢で、「古稀」からは数え年でお祝いをします。しかし、現在は一貫して満年齢でお祝いするご家庭が増えてきました。
葬儀
人が亡くなった時に行われる通過儀礼が葬儀です。亡くなった後、納棺や通夜が行われます。その後葬儀や告別式、火葬が行われ、故人の冥福を祈る意味が込められています。
通過儀礼を英語で何と言う?
ここでは、「通過儀礼」の英語表現を解説します。
「通過儀礼」は英語で、「rite of passage(ライト オブ パッセージ)」や「initiation(イニシエーション)」と訳されます。
厳密にはライトオブパッセージと訳すほうが通過儀礼の意味に近く、イニシエーションは組織や協会に加入するという意味合いが強いです。
しかし日本では、イニシエーションという単語を日本語の通過儀礼に当てはめる使い方が多いです。
女神さま
記事でご紹介したフランスの人類・民俗学者のA.ファン・へネップが提唱した「通過儀礼」の書籍をご紹介!ぜひご覧下さいね。
通過儀礼の意味のまとめ
- 人生での誕生、成人、結婚、死などの段階的な節目に行う儀式を通過儀礼という。
- 子どもの通過儀礼には、お食い初め、お宮参り、七五三などがある。
- 成人の通過儀礼には、成人式、結婚、長寿の祝いなどがある。
- 通過儀礼は英語で、イニシエーションやライトオブパッセージという。